産業医業務委託契約なのに給与支払いの矛盾:某M社

産業医の「業務委託契約」ですが、契約書上は「業務委託」としていながら、支払い形態はなぜか“給与”扱いという矛盾したやり方をしているケースが散見されます。
本記事では、このような企業の問題点やリスク、そして当事者に及ぶ不利益について批判的な視点から解説します。

「業務委託」と「雇用」の区分

業務委託契約とは

  • 契約形態
    個人事業主・フリーランスなどが企業から業務を「請負う」または「委任・準委任」される形。
  • 報酬の扱い
    報酬は「事業所得」または「雑所得」となるのが一般的。
    • 法人(企業)が個人事業主に支払うときは、一部の専門職(医師・弁護士など)で源泉徴収が必要。
    • 社会保険も国民健康保険・国民年金に自分で加入する。
    • つまり給与所得ではない.
  • 指揮命令系統
    仕事の進め方や場所・時間の裁量は、受任者(請負人)側に大きく与えられる。
    3者の下請け構造の場合、発注者企業が細かく勤務時間や就業場所を指定し、過度に管理・監督すると「偽装請負」と疑われるリスクがある。

雇用契約とは

  • 契約形態
    企業と労働者が「労務提供」と「給与支払い」で結ばれる形態。
  • 給与の扱い
    • 企業側が所得税・住民税の源泉徴収を行い、社会保険にも加入させる義務がある。
    • 時間外労働手当や有給休暇など、労働法上の保護を受ける。
  • 指揮命令系統
    企業(使用者)が労働者に対して時間・場所・業務内容などを直接指揮命令できる。
    3者であれば、派遣労働の形態をとる

実態で判断される国税上の扱いと偽装請負リスク

国税(税務署)の判断でも、労働基準監督署・労働局・厚生局などの厚労省の判断でも、「業務委託か雇用か」は名目ではなく実態で決まるとされています。たとえ契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも、実態が雇用であれば、偽装請負として会社側が行政から指導・罰則を受けるリスクがあります。

実際の業務委託契約書の紹介

某M社では「業務委託」でありながら「給与」として対価を支払うことが明言されています。

契約書ではどうなっているのでしょう。某M社の実際の業務委託契約書を入手しましたので紹介します。

対価の支払いについては、報酬や給与といった言葉を巧妙に避けていますね。

個人であれば給与だが

産業医の対価については、個人であれば給与収入となる、との国税の回答があります

しかし、これは事業所から個人の産業医が直接仕事を受けた場合の話であり、「個人の産業医であれば給与収入となる」という国税の回答は、あくまで「実態が雇用の場合」を前提にしているケース。
今回の“3者間契約”では、偽装請負の疑いが出てきます。

「どちらに転んでもおかしい」業務委託契約の矛盾

  • もし実態が雇用なら…
    • 「業務委託契約」と謳っているが実質は雇用 → 偽装請負扱いの危険。
    • 企業が社会保険未加入や雇用保険未加入を避けようとしていると疑われる。
  • もし実態が業務委託なら…
    • 対価を「給与」的に処理するのは明らかに不適切。
    • 事業所得・雑所得として扱うべきところを給与扱いにしてしまうと、税務上も整合性が取れない(消費税の課税可否、経費計上の可否などが変わる)。

つまり、どちらの立場(雇用 or 委託)を取るにしても矛盾が生じる状態になっており、名目と実態が食い違う違法な契約と言わざるを得ません。

会計・納税上どのような影響があるのか

実態が「雇用」で偽装請負であった場合の労働者のデメリットや企業のリスクは過去に説明したとおりです。

会計、納税上どのような影響があるかについて調べてみました

一般的には「雇用 → 業務委託」方向が多い

  • 企業側にとって、雇用契約を業務委託扱いにすることで仕入税額控除を利用できる税制上のメリットがある場合があるため、脱税の意図を持って名目を変えるのは「雇用 → 業務委託」のパターンが多いです。

業務委託 → 雇用にする意義は?

  • 原則的には「業務委託 → 雇用」に変更するとコストが増えることが多く、脱税目的ではあまり見られないものですが、産業医に関しては、ほぼ全員免税事業者であり、現在インボイス制度の移行期であるため、仕入税額控除については複雑な状況となっています。
  • 脱税の意図が無ければよいかというとそんなはずありません。産業医の人材紹介派遣会社は親会社が上場企業であるパターンもあり、会計監査を受けたり、株主等への責任もありますので、会計はより厳密になされる必要があります。
  • 偽装請負の意図は当然残ります。

まとめ:契約の「名目」ではなく「実態」がカギ

  • 嘱託産業医として働く場合、「業務委託」と「雇用」の違いを正確に理解することが重要。
  • 書類上「業務委託」なのに、実質は給与扱いで、時間拘束もあれば偽装請負の疑いが強まる。逆に実態が完全なフリーランスなのに「給与」と書かれた文言があれば、税務上・労務上の整合性を欠く。
  • 業務委託契約を安易に受けるリスクは過去の記事で説明しております。リスク回避のため、契約締結前に必ず契約書の文言と実態を確認し、違法性の高い契約は締結せず、厚生局などしかるべき窓口に知らせましょう。

コメント

  1. sasaki より:

    同感です。何卒、医師の雇用環境を、守ってください!以下、ご参考までに。

    「⼈材紹介会社は、法令を遵守しなければなりません。違反の疑いがあれば、以下にご相談ください。
    問い合わせ先: 各都道府県労働局
    群 馬 需給調整事業室 027-210-5105 京 都 需給調整事業課 075-241-3225 ⻑ 崎 需給調整事業室 095-801-0045
    埼 玉 需給調整事業課 048-600-6211 大 阪 需給調整事業第二課 06-4790-6319 熊 本 需給調整事業室 096-211-1731
    千 葉 需給調整事業課 043-221-5500 兵 庫 需給調整事業課 078-367-0831 大 分 需給調整事業室 097-535-2095
    東 京 需給調整事業第二課 03-3452-1474 奈 良 需給調整事業室 0742-88-0245 宮 崎 需給調整事業室 0985-38-8823
    神奈川 需給調整事業課 045-650-2810 和歌山 需給調整事業室 073-488-1160 ⿅児島 需給調整事業室 099-803-7111 」

  2. sasaki より:

    報道関係者 各位

    人材不足が特に顕著な医療・介護・保育分野において、職業紹介の条件等についてトラブルとなるケースが発生していることから、本年2月1日(水)、各都道府県労働局にこれらの分野の求人者を対象とした、『「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口』を設置しました。厚生労働省は、これらの取組により職業紹介事業者の法令遵守を推進し、事業の適正な運営を図ってまいります。

    照会先
    職業安定局需給調整事業課 
    課長:篠崎 拓也 課長補佐:笠松 和広
    (代表電話) 03 (5253) 1111(内線5747) (直通電話) 03 (3502) 5227

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