【事業所の皆様】人材紹介会社経由での産業医選任で「1年以下の懲役刑」のリスクがあります

産業医選任義務のある事業所の皆様へ――
産業医の選任を人材紹介・派遣会社経由で行っている場合、「1年以下の懲役刑」などの重い刑罰が課される可能性があることをご存じでしょうか?

■ 産業医選任で違法の可能性がある業務委託

近年、以下のような人材紹介・派遣会社を経由して産業医を選任するケースが増えています。

  • エ○スリーキャリア
  • ドクター○ラスト
  • エム○テージ
  • 産業医ク○ウド(A○enir)

これらの業者は、中小規模の嘱託案件はほぼすべて業務委託契約で行っているとされています。

しかし、このような業務委託形式での産業医選任は、「偽装請負」に該当するおそれがあり、労働者供給違反となると以下のような罰則が科されることになります。


■ なぜ「業務委託契約」が問題なのか?

産業医の選任に関して、違法性が問われるケースの多くは、委託元(発注者)→人材会社(一次請負)→医師(下請け)という三層構造です。

これがいわゆる「下請け構造」であり、形式上は業務委託契約でも、実質的には「労働者派遣」や「偽装請負」とみなされるリスクが非常に高くなります。


■ 想定される罰則一覧

違反内容罰則
無許可労働者派遣1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金
中間搾取の禁止1年以下の懲役 or 50万円以下の罰金
派遣禁止業務への派遣1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金
就業条件説明義務違反、期間を超えた派遣等30万円以下の罰金

特に産業医業務は、法律行為を含む「委任契約」に該当します。
そのため、下請け(医師)に人材会社が復委任すること自体が、法的に禁止されている構造なのです。


■ どうしてこのようなことが起こっているのか?

2020年に改正された【民法第644条の2】では、「やむを得ない事情」または「委任者の許諾」がある場合に限り、受任者が復受任者(第三者)を選任できると明文化されました。

しかしこの「委任者の許諾」という文言を悪用し、あたかも合法であるかのように復委任(再委託)を恒常的に行う例が後を絶ちません。

▼ 条文の背景:本来「復委任」は例外的なもの

委任契約とは、依頼者(委任者)が、専門性や信頼性を有する特定の者(受任者)に業務を委ねる契約です。
弁護士・医師・税理士などの「士業」は、特にこの委任契約の典型例とされます。

したがって、受任者が勝手に他人に業務を再委託(=復委任)することは、本来は契約の本旨に反し、原則として禁止されている行為です。
これが条文化されたのが民法第644条の2です。


▼【条文】民法第644条の2(復委任の制限)

受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対してその権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。


▼ 「委任者の許諾」とは何か?

この条文が問題となるのは、「委任者の許諾を得たとき」という部分です。
人材紹介会社などはここを根拠に、以下のようなスキームを正当化しようとします:

  1. 企業(委任者)が人材紹介会社に産業医業務を委託
  2. 人材紹介会社(受任者)が、医師(復受任者)に再委託
  3. 契約書に「復委任を許可する」旨を明記しているので合法、という主張

一見すると合法に見えるこのスキームですが、実際には以下のような問題を抱えています。


■ 拡大解釈による「法の抜け道」

条文の趣旨は「やむを得ない事情がある」「委任者が個別具体的に認めた」場合に限って、例外的に復委任を認めるというものでした。
しかし、人材紹介・派遣会社はこの条文を悪用し、

  • すべての委任契約に復委任条項を挿入
  • 実態としては単なる人材供給(偽装請負)
  • 委任者は形だけ同意をしている

といった状態を生み出しています。

つまり、「委任者の許諾さえあれば復委任し放題」というのは、法律の趣旨に反する拡大解釈にすぎないのです。

■ 契約書に同意がある以上「知らなかった」は通用しない

すでに契約をしている事業所の皆様は、一度ご自身の契約書をご確認ください。
そこに「復委任の同意」が含まれている場合、万一偽装請負で摘発された場合、
「知らなかった」「自社に非はない」という主張は通用しません。

一般的に、偽装請負と判断された場合、責任を問われるのは仲介業者だけではなく、
発注者も同様の責任を負うとされています。
ただそれだけでは、発注者は知らなかった、仲介が勝手にやった、など逃れる方法はあるかもしれません。

しかしながら、契約書に復委任同意条項が含まれていれば、発注者はその責任から絶対に逃れることはできないのです。
たとえ形式的な同意であっても、それ自体が重大な法的意味を持つ――
これこそが、人材派遣会社を通じた産業医派遣に潜む大きな落とし穴なのです。

■ 罰則一覧(再掲)

前に示したこちらの罰則ですが、この罰則は、仲介が受けるだけでなく、
発注者(産業医派遣を依頼する事業所)、つまりあなた自身が受ける可能性があるものです。
法令遵守のために産業医派遣を依頼したにもかかわらず、選定する業者が不適切であるために、
さらに大きなリスクを負ってしまってはたまりませんね。

違反内容罰則
無許可労働者派遣1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金
中間搾取の禁止1年以下の懲役 or 50万円以下の罰金
派遣禁止業務への派遣1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金
就業条件説明義務違反、期間を超えた派遣等30万円以下の罰金

■ 診療行為を伴う業務は「完全にアウト」

特に注意すべきは、医師が診療行為(例:診断・治療など)を行う業態で、「診療所」とみなされる可能性があるケースです。
この場合、労働者供給の枠を超えた重大な違反となり、重い処罰が避けられなくなります。


■ 参考:「偽装請負」の判断基準

なお偽装請負の判断基準ですが、以下のような要素が見られると、偽装請負であると認定される可能性が高まります:

判定要素偽装請負とみなされる例
指揮命令医師が企業の担当者から直接業務指示を受ける
勤怠管理医師の訪問日や勤務時間を企業が管理している
契約統制医師の選任・交代・解約に企業側が関与している
機材提供企業が医師に資金や機材・器具を提供している

こうした状況が一つでもある場合、それは偽装請負とみなされる可能性が高いです。この点については、別の記事で解説しております。


■ 最後に:産業医非選任の罰金50万円の方がマシ?

違法な業務委託契約を結んで摘発された場合、
人材会社だけでなく、発注者(=貴社)も同等に処罰の対象となるのです。
そして、民法644条の2の規定により、「知らなかった」で罪を逃れることはできません。

産業医を選任しない場合の罰則は「50万円以下の罰金」です。偽装請負の罪に問われるリスクを負うくらいなら、そちらの方がマシなのかもしれません。
産業医の選任方法について、今一度、法的なリスクをしっかりと把握し、
安全・適法なルートでの選任を検討してください。

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