エムスリーキャリアの嘱託産業医「紹介」サービス

当会では先日、エムスリーキャリア社による嘱託産業医「求人」広告について記事を公開しました。その中で、同社が「人材紹介」の名目で実態は偽装請負を行い、最大で9割に及ぶ中間マージンを収受している可能性があること、さらに契約した事業所側も罪に問われる可能性があるほか、労働安全衛生法の法令遵守ができなくなる恐れがあることなどを指摘しました。

記事は、医師や産業医のみならず、労働者や、「初めて産業医を選任する小規模事業所」を守るという公共公益的観点から、公開可能な証拠(エビデンス)を添えて真実相当性を担保したうえで執筆したものです。

しかし、この指摘をめぐって「申立人の社会的評価を低下させた」として、ある弁護士(依頼企業は不明)より、名誉毀損および営業権侵害を理由としたプロバイダーへの開示請求訴訟が提起されているところです。本件は弁護士を通じて係争中であり、現時点で経過を詳細にお伝えすることはできません。

エムスリーキャリア社のHPがこっそりと書き換わっている

注目すべきは、エムスリーキャリア社がこの状況を受けてか、HP上の「産業医紹介」という表現を、こっそり「産業医提案」と書き換えている点です。これはどのような意味をもつのでしょうか。

「紹介」から「提案」へ ― そもそも「紹介」とは?

辞書的に「紹介」とは「人と人の間に立って仲立ちをすること」でありますが、日本の人材業界においては「職業紹介」を意味するのが通例であり、法律にも定義されています。

職業紹介の定義(職業安定法第四条)

「職業紹介」とは、求人および求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。(職業安定法第四条)

職業紹介とは雇用契約をとりもつことが定義からも明らかです。

エムスリーキャリアの嘱託産業医はすべて業務委託契約

一方で、同社が提供する「産業医紹介サービス」の実態は、求人広告やホームページ上の記載を確認する限り、ほぼすべて「業務委託契約」に基づいています。

「業務委託契約」が偽装請負にあたる可能性があり、依頼した事業所自身も「労働者派遣法違反等」の法的責任を問われるリスクがあることは、以前の記事ですでに解説しました。

一方で、偽装請負に該当するかしないかにかかわらず、「紹介」という広告表現が雇用のあっせんを意味する以上、同社の「産業医紹介」という広告は虚偽にあたることになります。

【エムスリーキャリア】産業医顧問サービスタクシー広告


虚偽広告と法的リスク

虚偽広告を行った場合、消費者向けの取引であれば「景品表示法」が問題となります。しかし同法はBtoC(消費者取引)限定です。BtoB領域では、独占禁止法における「不当顧客誘引」に関する規制が適用されます。

独占禁止法における禁止行為

  1. 欺瞞的顧客誘引
     事業者は、商品・サービス内容や取引条件を実際以上に有利と誤認させ、顧客を不当に誘引してはならない。
  2. 不当な利益による顧客誘引
     過大な報奨金やサービスを与えて、競合から顧客を奪うことは不当とされる。

つまり「産業医紹介」と称しながら実態は偽装請負リスクのある業務委託である場合、これは独占禁止法上の「欺瞞的顧客誘引」に該当する可能性があります。

紹介なのに手数料0円で他社よりも優良である広告

エムスリーキャリア社は、有料職業紹介事業の認可を受けており、通常の人材紹介サービスにおいては紹介手数料を公開しています。これは法律上当然のことです。

ところが、旧「産業医紹介サービス」では事情が異なります。

  • 「初期費用・選任手数料 0円」
  • 「すべてのプランが法令に準拠」

と大きく宣伝し、あたかも「他社よりも安く、優良である」と比較広告まで行っていました。

https://sangyoui.m3career.com/service/price (「紹介」が「提案」になる前のもの)

本当に0円なのか?

ここで考えなければならないのは、なぜ選任時の手数料が0円なのかという点です。
その答えは当ブログで何度か説明している通りです。

事業所から直接「選任手数料」を徴収するのではなく、
産業医に支払われるべき報酬から巨額の中間マージンを抜き取る ことで収益を得ているのです。

これを「紹介」などと嘘をつき、業務委託契約で被るリスクを表示しないままで「手数料0円」をアピールするような広告は上記に示す独占禁止法に反する広告と言えるでしょう。


事業所が被るリスク

産業医を選任すべき事業所が、エムスリーキャリアのこうした欺瞞的広告を見て、欺罔され錯誤し契約した結果、

  • 労働安全衛生法の法令遵守ができない
  • 偽装請負に加担したとみなされ処罰される

といったリスクを負うのは、まさに事業所なのです。特に、産業医選任を必要とするのは、従業員数が初めて50人を超えるなど、初めてで法的知識の乏しい小規模事業所が多いため、これは非常に深刻な問題です。

「営業権侵害」は筋違い

相手方弁護士からは「営業権の侵害」との主張がなされていますが、今回の一連の問題の背景には独占禁止法の観点があるため、「営業権侵害」という法的主張はナンセンスなものであると言えるでしょう。


まとめ

エムスリーキャリアの嘱託産業医「紹介」サービスは、実態として 紹介ではなく業務委託 であり、事業者が誤認して契約すれば、法令違反リスクを負うことになります。

これは単なる企業間の問題ではなく、労働者の健康管理そのものに直結する重大な社会問題です。

嘱託産業医学会は、すべての労働者と小規模事業所を守るため、今後も公共公益の立場からこの問題を発信してまいります。


おまけ 「脳外科医竹田くん」も名誉棄損で訴えるそうです

皆さまもすでにご存知のニュースと思われますが、「脳外科医竹田くん」のモデルとなった医師が、作者を名誉毀損で訴える構えであると報じられました。

記事:「『脳外科医竹田くん』は名誉毀損?医療事故元にしたウェブ漫画で訴訟」
(読売新聞 2025/08/24)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20250823-OYO1T50039

赤穂市民病院の事件については、既に地裁において 8,888万円の損害賠償を命じる判決 が出ています。医療過誤は明白であり、社会に告発すべき重大事案です。

それにもかかわらず、批判を浴びる立場の者が、自らの行為を省みるのではなく「名誉毀損」を盾にして、声を上げる者を訴え、言論を封じ込めようとする――。これはまさに不正の常套手段であり、許されるべきではありません。

公益に資する表現や告発を萎縮させることは、社会正義そのものを踏みにじる行為です。
私たちはこのような圧力に決して屈してはならない。

正義のために立ち向かう覚悟を持ち、必要であれば差し違えてでも声を上げる。
それこそが人としての矜持であり、未来へ責任を果たす唯一の道だと信じます。

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