はじめての嘱託産業医2:日々の業務

50人規模事業所における産業医業務のイメージ

50人規模の事業所で、月1回・1時間程度の産業医訪問を想定した場合、典型的な流れは以下のようになります。

毎回のルーチン業務

毎月の訪問時には、主に以下の業務を行うことが多いです。

  • 衛生委員会への参加
    10分〜30分程度
  • 職場巡視
    10分〜30分程度

時間は、事業所の規模や業種、健康リスクや事業所の取り組み姿勢によって大きく変わります。

限られた時間の中で行うため、時間配分が大切です。

年1回または半年に1回程度の業務

  • 健康診断結果の確認・判定

健康診断後には、健診結果を確認し、必要に応じて就業上の措置や受診勧奨について意見を述べます。

必要に応じて行う業務

事業所の状況や依頼内容に応じて、以下のような対応を行うこともあります。

  • 社員面談
    1人あたり5分〜30分程度
  • 健康教育
    10分程度から実施可能

具体的な業務のやり方については、次の記事で解説します。

実際の業務量は、従業員数、職場の業種、健康課題の多さ、衛生委員会の運営状況などによって大きく変わります。

依頼を受けて産業医業務を行う場合、多くは事業所側が必要な資料や流れをある程度用意してくれることが多いです。前任の産業医のやり方を踏襲する形で始まることも少なくありません。

一方で、衛生委員会の立ち上げから関わる場合には、委員会の構成、議題の設定、議事録の作成方法、年間計画など、準備すべきことが多くなります。

日本嘱託産業医学会では、こうした立ち上げや運営面のサポートも無料で行っております。お困りの際は、ぜひご相談ください。

産業医業務の法的根拠について

産業医業務には、法令上明確に義務づけられているものと、努力義務や医師の判断により実施されるもの、法令上の根拠はないものの実務上求められるものがあります。

項目事業所にとっての位置づけ主な根拠実務での意味
産業医の選任義務労働安全衛生法13条、安衛則13条等常時50人以上のすべての事業場では産業医を選任。選任報告を労基署に提出。
衛生委員会の設置・開催義務労働安全衛生法18条、安衛則23条50人以上では衛生委員会を設置。委員会は毎月1回以上開催するよう定められています。
産業医の衛生委員会参加実質的に重要/産業医業務労働安全衛生法18条、安衛則14条等産業医は衛生委員会等に参画し、必要な調査審議を求めることもできます。
職場巡視義務安衛則15条原則、少なくとも毎月1回。一定条件を満たせば2か月に1回も可。
定期健康診断義務労働安全衛生法66条、安衛則44条等事業者は労働者に健康診断を実施する義務があります。
健診結果の医師意見聴取義務労働安全衛生法66条の4、安衛則51条の2等異常所見者について、就業上の措置に関する医師等の意見を原則3か月以内に聴取。
健診後の就業上措置義務労働安全衛生法66条の5必要に応じて、就業場所変更、作業転換、労働時間短縮、深夜業減少等を検討。
長時間労働者面接条件付き義務労働安全衛生法66条の8等一定の長時間労働・疲労蓄積・本人申出等の条件で、医師面接指導を実施。医師は報告書・意見書を作成し、事業者の就業上措置につなげます。
月80時間超の情報提供義務労働安全衛生法・安衛則関係事業者は、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の氏名・時間情報等を産業医に提供する必要があります。
ストレスチェック義務労働安全衛生法66条の1050人以上では年1回のストレスチェックが義務。2025年改正で50人未満にも義務化方向となっています。
高ストレス者面接条件付き義務労働安全衛生法66条の10高ストレス者で、面接指導が必要とされ、本人が申し出た場合、医師面接指導を実施。
社員面談・健康相談義務の場合あり/任意の場合あり安衛則14条、66条の8、66条の10等長時間労働・高ストレス・健診事後措置なら法令根拠あり。一般的な健康相談は産業医業務の一環だが、個別に必ず実施義務があるとは限りません。
健康教育努力義務寄り安衛則14条等産業医の職務には健康教育・健康相談等が含まれますが、「毎月10分必ず実施」のような義務ではありません。
休職・復職面談法令上は直接規定が薄い労働契約法上の安全配慮義務、就業規則、判例実務等安衛法上の定型義務というより、会社の安全配慮義務・就業規則運用・主治医意見との調整として実務上重要です。

特に小規模事業所の場合は、全てをできるとは限りません。様々な制約により、できない業務が生じてもまずはできることからやっていく姿勢が大切です。

なお、これらの義務は事業所にとっての義務です。産業医がこれらをやらなかったからといってただちに罪に問われるというわけではありません。(産業医の責任についてはのちに解説します)
また、医師の判断で事業所にとっての対応義務が生じるものがいくつかあります。

このように、産業医業務について以下の分類を知っておくと役に立ちます。

  • 法令上の義務
  • 医師の判断により義務となるもの
  • 努力義務(「義務ではない」と解されることが多いです)
  • 法令上の根拠はないが実務上対応を求められるもの

ただし、初心者の段階では、最初から細かい法的根拠をすべて覚える必要はありません。まずは、実際の現場で求められる業務に対応していくことが大切です。

実際の現場では

特に選任義務下限あたりの小規模事業所では、産業医の業務内容が理解されず「医療・健康に関する何でも相談できる人」と見られることがあります。また、気が進まないが労基署に言われて選任しているパターンもあります。

本来の産業医業務から外れた相談を受けたり、法令上の義務を無視されることもありますが、最初から無理に対立するよりも、まずは事業所の困りごとを聞く姿勢を持つ方が、その後の健康管理や職場改善につながりやすいこともあります。

一方で、明らかに無理な要求や、医師としてあまりに適切でない対応を求められる場合には、契約を解除するという選択肢も持っておいた方が良いです。

産業医のバランス

産業医業務では、次のような視点の間で悩む場面が少なくありません。

  • 法令遵守を優先するのか
  • 労働者の健康保護を優先するのか
  • 事業所・管理者側の要望を優先するのか

これは産業医にとって、非常に悩ましい永遠のテーマともいえます。

最初のうちは、どれか一つに偏りすぎるのではなく、法令、労働者保護、事業所の実情のバランスを意識することが大切です。