職場で働く人の健康を守るために、産業医選任義務のある事業所で行われているのが「衛生委員会」です。
この記事では、はじめて嘱託産業医をする医師、もしくははじめて産業医を選任する事業所のために、衛生委員会の基本的なルールや参加者、よく話し合われるテーマ、議事録の作り方、健康教育の進め方について解説します。
衛生委員会は月1回以上の開催が必要
衛生委員会は、従業員数50人以上の全ての事業所において、毎月1回以上開催することが労働安全衛生規則第23条で定められています。
なお、安全委員会を設置する必要がある事業場では、衛生委員会とあわせて「安全衛生委員会」として開催することもできます。安全委員会の開催義務については、業種や事業場の規模によって異なりますが、ここでは衛生委員会を中心に説明します。
また、産業医の職場巡視については、2017年の制度改正により、一定の条件を満たす場合に限り、毎月1回以上から2か月に1回以上とすることが可能になりました。
ただし、ここで注意が必要です。
これはあくまで「産業医の職場巡視頻度」に関する例外であり、衛生委員会そのものを2か月に1回でよいとするものではありません。衛生委員会は、原則として毎月1回以上の開催が必要であり、産業医が参加する必要があります。これは、産業医の訪問義務を減らしていいということではありません。労働局からもアナウンスが出ています。
産業医の訪問契約や外部サービスの説明の中で、この点を意図的に混同させようとする産業医紹介派遣業者がいます。事業者や人事労務担当者は、「衛生委員会の開催頻度」と「産業医の職場巡視頻度」を分けて理解しておくことが大切です。
衛生委員会の参加者
衛生委員会には、参加者について一定の規定があります。
労働安全衛生法第18条では、衛生委員会の委員として、主に次のような人を構成員とすることが定められています。
- 総括安全衛生管理者、または事業場を統括管理する者もしくはこれに準ずる者のうち、事業者が指名した者
- 衛生管理者のうち、事業者が指名した者
- 産業医のうち、事業者が指名した者
- 当該事業場の労働者で、衛生に関して経験を有する者のうち、事業者が指名した者
このうち、事業場を統括管理する立場の委員は1人とされ、その人が衛生委員会の議長を務めます。
また、労働者側の意見が反映されるように、議長以外の委員の半数については、労働組合または労働者代表の推薦に基づいて指名することになっています。
つまり、衛生委員会は会社側だけで進める会議ではありません。使用者側、労働者側、産業医、衛生管理者などが参加し、それぞれの立場から職場の健康課題を話し合う場です。
実務上は、産業医選任義務最小である50人程度の事業所で立ち上げたばかりのところは、なかなか人が出せず、議長と産業医と労働者代表1人の3人で開催されることもあります。
規模の大きい事業所や、支店に分かれる事業所は、各部長と労働組合が集まる大会議の場となることもあります。
最初は手探りでも構いません
労働衛生についてそれぞれの立場から話し合うと言っても、使用者側も労働者側も、まずは何を話せばいいのかわからない方が殆どなのではないでしょうか。
ですので、大事なのはまず最初は、会議としての体裁をととのえること。そして、産業医がリードし、みんなに少しでも安全や健康を意識してもらって、衛生管理を受け入れやすい土壌をつくることが大事かと思います。
まずは会議としての体裁をととのえることを話します。
衛生委員会ではどんなことを話すのか
衛生委員会で話し合う内容は、職場の健康障害を防ぐことや、従業員の健康保持・増進に関することが中心です。
たとえば、事業者には、時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者の氏名や、産業医が労働者の健康管理を適切に行うために必要と認める情報についても情報提供義務があることから、衛生委員会の場で報告されることがあります。
よく取り上げられる報告事項としては、次のようなものがあります。
- 長時間労働者の発生状況
- 労災やヒヤリハットの発生状況
- 休職者の発生状況や復職支援の状況
- 感染症の発生状況
- 健康診断やストレスチェックの実施状況
- 産業医面談や保健指導の実施状況
- 職場巡視で確認された課題
また、職場環境の改善や、(安全衛生委員会の場合は)安全面に関わる内容として、次のようなテーマが話し合われることもあります。
- 職場の温度、湿度、換気、照明などの環境改善
- 腰痛、肩こり、眼精疲労などの予防
- 機械によるはさまれ、転倒、けがなどの予防
- 整理整頓や5S活動
- 交通安全
- メンタルヘルス対策
- ハラスメント対策
- 感染症予防
- 熱中症対策
- 在宅勤務時の健康管理
衛生委員会で扱うべきテーマは、業種や職場の状況によって大きく変わります。
たとえば、製造業であれば機械災害や騒音、化学物質、熱中症などが重要になることがあります。オフィスワーク中心の職場であれば、長時間労働、メンタルヘルス、VDT作業による眼精疲労や肩こりなどが中心になるかもしれません。介護や医療の現場では、腰痛、感染症、夜勤、カスタマーハラスメントなどが重要なテーマになりやすいでしょう。
議事録のテンプレートを活用する
衛生委員会を開催した際には、議事録を作成します。
記録しておきたい内容としては、たとえば次のようなものがあります。
- 開催日時
- 出席者
- 議題
- 報告事項
- 委員から出た意見
- 委員会としての意見
- 意見を踏まえて講じた措置
- 次回までの検討事項
- 産業医からの助言やコメント
議事録の形式に、これでなければならないという決まった様式があるわけではありません。自由記入欄が多いものもあれば、定型的なチェック項目を中心にしたものもあります。自分の事業場に合ったテンプレートを選び、継続して使いやすい形に整えることが大切です。
日本嘱託産業医学会では、会員医師や登録いただいた事業所向けに、自由に使える議事録テンプレートを用意しています。
衛生委員会を始めたばかりの事業所や、毎月の記録に悩んでいる担当者の方は、ぜひご活用ください。
議事録は3年間の保管が必要
衛生委員会の議事録は、単なる社内メモではありません。職場が安全衛生にきちんと取り組んでいることを示す大切な資料です。
労働安全衛生規則では、委員会における重要な議事に関する記録を作成し、3年間保存することが定められています。
普段は労基署への提出義務はありませんが、立入検査などで求められることもあり得ます。
また、衛生委員会で話し合った内容は、従業員に周知することも必要です。
健康教育が行われることもある
事業所によっては衛生委員会が人の集まる場となることもあるので、従業員向けに健康教育が行われることもあります。
健康教育といっても、形式に厳密な決まりがあるわけではありません。産業医などが、職場の課題に合わせて短い講話を行うこともあれば、資料を配布したり、動画を共有したりすることもあります。
健康教育で大切なのは、専門的な内容にしすぎないことです。
もちろん医学的に正確であることは重要ですが、従業員にとっては「明日から少し試してみよう」と思える身近な内容の方が、受け入れられやすいことがあります。
また、健康教育は、産業医が従業員に顔を知ってもらう機会にもなります。普段は面談や職場巡視でしか関わらない産業医が、健康教育を通じてわかりやすく情報発信することで、従業員が相談しやすくなることもあります。
従業員に喜ばれやすい健康教育のテーマ
健康教育で喜ばれやすいのは、仕事や日常生活にすぐ役立つテーマです。
また、業種、職種、年齢層、性別、勤務形態など、事業場の特色に合わせた内容にすると、より関心を持ってもらいやすくなります。
たとえば、次のようなテーマは多くの職場で取り上げやすい内容です。
- 肩こり、腰痛、眼精疲労を防ぐストレッチ
- デスクワーク中の姿勢改善
- 睡眠の質を高めるコツ
- 疲労回復と休み方
- ストレスとの付き合い方
- メンタル不調のサインに気づく方法
- 更年期や女性の健康
- 飲酒、喫煙、間食との付き合い方
- 在宅勤務中の健康管理
- 職場のコミュニケーション改善
- 健康診断結果の見方
- 生活習慣病予防
特に、ストレッチ、睡眠、食事、メンタルヘルスなどは、職種を問わず多くの人に関係するため、参加者の満足度が高くなりやすいテーマです。
また、季節を意識することも大切です。
- 熱中症対策(夏前)
- インフルエンザなどの感染症予防(冬前)
- 健診結果の見方や生活習慣病予防(健康診断の結果が返ってくる時期)
- メンタルヘルスや新入社員の不調への気づき(入職シーズン)
- 交通安全や転倒予防(秋)
などがテーマになります。
健康教育は、毎回大きなテーマを扱う必要はありません。5分から10分程度の短い内容でも、毎月継続することで、職場全体の健康意識を少しずつ高めることができます。
健康教育資料を活用しよう
日本嘱託産業医学会では、健康教育や衛生委員会の話のネタにつかえる資料を多数用意し、会員医師や事業所様に公開しています(準備中)。
産業医業者なども健康教育資料を公開していますが、非医療従事者が作成したものも多く、内容の間違いも散見されます。当会としては、一定の品質を保った資料を提供することで産業衛生水準を底上げしたいと考えています。
衛生委員会を「形だけ」で終わらせないために
制度としての衛生委員会は、使用者、労働者、産業医などが職場の安全衛生について意見を出し合い、改善につなげる場として位置づけられています。
理想をいえば、各委員が活発に意見を出し合い、職場の課題について建設的に議論できる場であることが望ましいでしょう。
しかし、実際の現場では、なかなかそうはいかないこともあります。
毎月の開催が負担になっていたり、議題が固定化していたり、報告だけで終わってしまったりすることもあります。担当者が「何を話せばよいのかわからない」と感じることも少なくありません。
そのため、ある程度の型を決めておくことは大切です。
たとえば、毎月の衛生委員会を次のような流れにしておくと、運営しやすくなります。
- 前回議事録の確認
- 長時間労働者、休職者、労災、感染症などの定例報告
- 職場巡視やヒヤリハットの共有
- 今月の重点テーマについての話し合い
- 健康教育
- 次回までの確認事項
このように基本の流れを決めたうえで、毎月のテーマを少しずつ変えていくと、形骸化を防ぎやすくなります。
一方で、衛生委員会は、法律上必要だから開催するものでもあります。そのため、どうしても「開催すること」が目的になってしまいがちです。
しかし本来は、毎月の委員会で小さな課題を拾い上げ、改善策を考え、従業員に役立つ情報を届けることが目的です。
医療と関係のない仕事をしている多くの人にとって、健康に対する認識は、医師や産業保健職とは大きく異なります。体調不良があっても「忙しいから仕方ない」「仕事を優先しなければならない」と考える人も少なくありません。
だからこそ、衛生委員会には意味があります。
職場の変化を見逃さず、従業員の声を拾い、産業医や衛生管理者の専門的な視点を加えながら、無理のない改善を積み重ねていくことが大切です。
衛生委員会は、うまく活用すれば、職場の健康課題を早めに見つけ、働く人を守るための実践的な場になります。
「形だけ」で終わらせるのではなく、自分たちの職場に合った衛生委員会を少しずつ育てていきましょう。

