安衛法違反の罰則を、罰金額の一覧ではなく、事業場でどの違反を優先して潰すべきかという実務目線で整理します。
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労働安全衛生法の罰則は、「違反したらすぐ必ず送検」という単純なものではありません。多くの場面では、労働基準監督署の調査、是正勧告、報告、再確認という流れがあります。一方で、死亡・重篤災害、危険防止措置の欠落、労災かくし、虚偽報告、監督拒否のような事案では、刑事事件として扱われるリスクが高くなります。
厚生労働省によると、監督指導は、”法違反等を是正していただくことが目的。(出典:厚生労働省「労働基準監督官の仕事」)”であるとしています。罰則だけを恐れるのではなく、是正できる体制を持っているかが、事業場管理の第一歩です。

安全衛生のあらゆる部分にいえることですが、隠してしまう選択肢が取られがちです。しかしそれは最悪の事態を招くリスクがあります。
罰則は「条文番号」と「現場リスク」を分けて見る
安衛法の罰則を見るときは、二つに分けてください。第一に、罰則条文そのものです。第116条から第122条に、拘禁刑、罰金、両罰規定などが並びます。第二に、現場で問題になる違反類型です。未選任、未実施、未報告、虚偽報告、危険防止措置の欠落、特別教育漏れ、無資格就業などです。
労働安全衛生法第92条によると、労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、”労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行なう。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第92条)”であるとしています。つまり、重大・悪質な場合には、行政指導だけでなく刑事手続につながる制度です。
厚生労働省によると、重大又は悪質な法違反では、労働基準監督官が”刑事事件として犯罪捜査。(出典:厚生労働省「労働基準監督官は、どのようにして会社を監督しているのでしょうか」)”を行うことがあります。経営者向けには、この点を「行政手続で終わらない可能性」として伝えるのが実務的です。
主な罰則の全体像
| 罰則の重さ | 代表的な対象 | 実務での見方 |
|---|---|---|
| 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 | 製造等が禁止された重度健康障害物質の製造・輸入・譲渡・提供・使用 | 化学物質を扱う研究・製造・輸入部門では、法令確認を安全衛生担当だけに任せない |
| 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | 特定機械等、検定、免許・登録関係などの一部違反 | 機械設備、製造許可、検査、登録機関に関わる部門で問題になりやすい |
| 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 危険防止措置、健康障害防止措置、作業主任者、特別教育、就業制限、表示・文書交付など | 建設、製造、物流、林業、化学物質取扱いでは、送検公表事案に出やすい領域 |
| 50万円以下の罰金 | 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、委員会、健康診断、面接指導、報告徴収・立入検査対応など | オフィス系事業場でも関係しやすい。50人以上の事業場は特に台帳化する |
| 両罰規定 | 行為者だけでなく法人または事業主への罰金 | 現場責任者だけの問題として片付けず、会社の管理体制として扱う |
労働安全衛生法第116条によると、第55条違反については、”第五十五条の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第116条)”であるとしています。第55条は、重度の健康障害を生ずる物の製造等を禁止する条文です。
労働安全衛生法第119条によると、危険防止措置や特別教育などに関係する一部違反は、”次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第119条)”であるとしています。墜落、はさまれ、巻き込まれ、酸欠、有害物ばく露などの災害につながる領域では、この条文が実務上重要です。
労働安全衛生法第120条によると、産業医選任、衛生管理者選任、健康診断などの一部違反は、”次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第120条)”であるとしています。管理体制の違反は軽く見られがちですが、50人以上の事業場では継続的に点検すべき項目です。
法人も対象になる両罰規定
安衛法違反の罰則は、現場担当者や工場長だけの問題ではありません。法人の業務に関して従業者が違反行為をした場合、行為者に加えて法人にも罰金刑が及ぶことがあります。これは、会社として安全衛生管理体制を整えるべきだという発想です。
労働安全衛生法第122条によると、従業者等が法人の業務に関して違反行為をした場合、”法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第122条)”であるとしています。現場任せ、委託先任せ、担当者任せは、会社のリスク管理として不十分です。
50人以上の事業場で起きやすい違反
オフィス、店舗、医療・介護、学校、IT企業でも、罰則リスクはあります。典型は、50人以上になったのに産業医を選任していない、衛生管理者を選任していない、衛生委員会を設けていない、健康診断を実施していない、長時間労働者の医師面接の運用がない、といった管理体制の不備です。
労働安全衛生法第13条によると、事業者は、一定規模の事業場ごとに、”事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第13条)”労働者の健康管理等を行わせなければならないとしています。この第13条第1項違反は、第120条の50万円以下の罰金の対象に含まれます。
労働安全衛生法第66条によると、事業者は、労働者に対し、”医師による健康診断を行わなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第66条)”であるとしています。第66条第1項から第3項までの違反も、第120条の対象に含まれます。健診を実施しただけでなく、未受診者対応、事後措置、50人以上の結果報告まで台帳化してください。
労基署の方にお話しを伺ったところ、50人を超えそうな事業所はきっちりチェックしているらしいです。産業医を見つけるのが難しそうならばぜひ当会にご相談ください。
現場災害で重く見られやすい違反
建設、製造、物流、林業、清掃、設備保全などでは、危険防止措置の欠落が送検公表事案に現れやすい領域です。高所作業の墜落防止、機械の覆い・停止、車両系機械との接触防止、フォークリフト等の資格、酸欠測定、作業主任者、特別教育などは、事故が起きてから確認するのでは遅い項目です。
労働安全衛生法第20条によると、事業者は、機械、爆発性・引火性物、電気・熱などによる危険を防止するため、”事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第20条)”であるとしています。第20条違反は第119条の対象に含まれます。
労働安全衛生法第61条によると、クレーン運転など政令で定める業務については、資格を有する者でなければ、”事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第61条)”であるとしています。無資格就業は、担当者の認識不足では済まない典型例です。
愛知労働局の公表事案では、労働安全衛生法第20条に関する例として、機械の掃除等の際に”機械の運転を停止しなかったもの。(出典:愛知労働局「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和7年5月1日~令和8年4月30日)」)”が掲載されています。公表事案は個別の送検事案なので、自社では「同じ設備・同じ作業がないか」を横展開で確認する材料にします。
労災報告と監督署対応の違反
労災が起きた後の対応にも罰則リスクがあります。労働者死傷病報告を出さない、遅らせる、虚偽の内容で提出する、監督署の立入検査を拒む、必要な報告をしない、虚偽報告をする、といった行為です。事故そのものとは別に、報告・調査対応が問題になります。
労働安全衛生規則第97条によると、事業者は、労働者が労働災害等により死亡し、又は休業したときは、”前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、それぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、電子情報処理組織を使用して、同項各号(第九号を除く。)に掲げる事項及び休業日数を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第97条)”であるとしています。労働者死傷病報告は、災害対応の初動チェックリストに入れておくべき手続です。
労働安全衛生法第100条によると、労働基準監督署長等は、必要があると認めるとき、事業者等に対し、”厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者、通知対象物譲渡者等又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第100条)”であるとしています。第120条は、報告をしない場合や虚偽報告についても罰則を置いています。
労働安全衛生法第91条によると、労働基準監督官は必要があると認めるとき、事業場への立入り、質問、帳簿書類等の検査などを行うことができます。同条は、立入検査の権限について、”第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第91条)”であるとしています。一方で、拒否・妨害・虚偽陳述には第120条の罰則が関係します。
送検公表事案から分かる実務リスク
厚生労働省によると、令和5年の司法処分では、”1年間に約800件。(出典:厚生労働省「労働基準監督官の仕事」)”を送検し、そのうち労働安全衛生法違反被疑事件が約61%を占めています。数字だけで恐れる必要はありませんが、安衛法違反が送検実務の中心領域の一つであることは押さえてください。
同ページによると、送検対象になり得る事案には、”労災かくし。(出典:厚生労働省「労働基準監督官の仕事」)”や、”機械などの安全基準を満たさないために労働災害を発生させた事案。(出典:厚生労働省「労働基準監督官の仕事」)”が含まれます。安全衛生管理では、事故後の報告隠しと、事故前の危険放置を別々に点検します。
愛知労働局の公表事案によると、労働安全衛生法第100条・労働安全衛生規則第97条に関する例として、”遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなかったもの。(出典:愛知労働局「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和7年5月1日~令和8年4月30日)」)”が掲載されています。報告書は、会社を守るために軽く書き換える書類ではありません。事実、休業見込み、発生状況を正確に残す資料です。
産業医が関わるときの注意点
産業医は、会社の罰則回避を請け負う立場ではありません。産業医の役割は、労働者の健康管理、就業上の措置に関する医学的意見、健康情報の適正な取扱い、衛生委員会での助言です。罰則リスクを説明する場合も、会社の最終判断と産業医の医学的意見を分けて記録します。
特に、産業医選任、健康診断、長時間労働面接、ストレスチェック、衛生委員会、労働者死傷病報告では、産業医の名前や意見が社内資料に出ることがあります。会社が未選任や未実施を放置している場合は、事業場の安全衛生管理体制として是正を求めるべきです。ただし、刑事責任の有無を個別事案で断定するのは避け、必要に応じて弁護士・社労士・所轄労働基準監督署へ確認します。
罰則リスクを下げる社内チェック
- 事業場ごとに常時使用する労働者数を確認し、50人以上の拠点を一覧化する
- 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、安全委員会、衛生委員会の要否を確認する
- 健康診断、特殊健康診断、歯科健康診断、長時間労働面接、ストレスチェックの実施状況を台帳化する
- 機械、車両系機械、高所作業、酸欠、有害物、化学物質、騒音、振動、熱中症などの危険源を作業別に洗い出す
- 作業主任者、特別教育、就業制限業務の資格者リストを最新化する
- 労働者死傷病報告の提出要否、電子申請、到達番号、控え保存を事故初動手順に入れる
- 監督署からの是正勧告、使用停止命令、報告命令を案件番号で管理する
- 是正報告は写真、台帳、教育記録、議事録、発注書など客観資料で残す
- 「現場がやっているはず」「委託先が見ているはず」という前提をやめ、会社として確認する
- 労災発生時は、原因調査、再発防止、報告、労災保険手続、関係者説明を分けて管理する
まとめ
安衛法違反の罰則は、罰金額の暗記よりも、違反類型の把握が重要です。50人以上の事業場では、産業医・衛生管理者・委員会・健康診断・面接指導の体制不備が問題になります。現場系事業場では、危険防止措置、特別教育、資格、機械設備、化学物質、酸欠、高所作業が重要です。労災発生後は、労働者死傷病報告と監督署対応の正確さが問われます。
実務では、罰則を「怖い話」として終わらせず、事業場単位の台帳、資格者リスト、教育記録、健診・面接指導の運用、労災報告フロー、是正報告の証拠管理へ落とし込むことが大切です。産業医は、会社の刑事責任を判断する立場ではありませんが、安全衛生管理体制の穴を早期に見つけ、労働者の健康確保につながる是正を促す役割があります。
参考資料
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 厚生労働省「労働基準監督官の仕事」https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/law/kantokukan.html
- 厚生労働省「労働基準監督官は、どのようにして会社を監督しているのでしょうか」https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/zenpan/q3.html
- 厚生労働省「労働災害」https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/study/roudousya_roudousaigai.html
- 愛知労働局「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和7年5月1日~令和8年4月30日)」https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/002643218.pdf
- 確認日:2026年5月29日




