産業医の辞任・解任・退任報告義務: 2026年8月1日施行予定の実務

産業医が辞任・解任・退任したときに、会社が何を、いつ、どこへ報告するのかを整理する記事です。

2026年8月1日から、産業医の辞任・解任・退任があった場合の報告義務が新たに始まる予定です。これまでも、産業医を選任したときの報告や、辞任・解任時の衛生委員会等への報告は実務上重要でした。今後は、産業医がいなくなった事実そのものを、所轄労働基準監督署長へ報告する実務が加わります。

厚生労働省の施行通達によると、労働安全衛生規則の一部改正省令は、令和8年4月28日に公布され、令和8年8月1日から施行する。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”であるとしています。この記事は、2026年5月29日時点で公表されている情報に基づいています。

さんぽ先生
さんぽ先生

実は、今まで長らく、選任時の報告は必要だが解任時の報告は不要という状況が続いていました。これで何が起こったかというと、産業医が辞任しても、次の産業医を選任せずに辞めた医師を選任したままにしてしまうという事例が多くあったといわれています。特に、高齢の産業医が死亡してもその産業医を選任したままにする幽霊産業医が、ジョークとしてよく囁かれていますが、実際には結構存在したようです。

何が変わるのか

変更点は、常時50人以上で産業医の選任義務がある事業場において、産業医が辞任・解任・退任した場合、所轄労働基準監督署長への報告が必要になることです。ここでいう「辞任等」は、産業医が自ら辞める場合だけでなく、会社側が解任する場合、任期や契約の終了で退任する場合も含みます。

厚生労働省の施行通達によると、改正の要点は、事業者に対して、産業医の辞任、解任又は退任。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”があった場合の報告を義務付けるものです。

同通達によると、報告内容は、当該産業医の氏名及び辞任等の年月日等。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”であるとしています。実務では、産業医の氏名、辞任・解任・退任日、事業場情報、後任選任の有無を、契約終了の社内記録と一致させる必要があります。

産業医の選任義務:50人、500人、1000人、3001人の基準

対象は「産業医の選任義務がある事業場」

対象は、産業医の選任義務がある事業場です。法人全体で50人以上かどうかではなく、本社、支店、工場、店舗、営業所などの事業場ごとに常時使用する労働者数を確認します。

労働安全衛生法第13条によると、事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第13条)”その者に労働者の健康管理等を行わせなければならないとしています。

厚生労働省のリーフレットによると、労働者数50人以上の事業場では、労働安全衛生法に基づき、産業医を選任することが義務付けられています。(出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」)”であるとしています。今回の報告義務も、この50人以上の事業場を基本に整理します。

同リーフレットによると、労働者数が50人未満になった場合の産業医の辞任等については、報告義務はありません。(出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」)”であるとしています。ただし、同リーフレットは選任状況の把握の観点から監督署への報告を求めています。迷う場合は、所轄労働基準監督署へ確認してください。

産業医選任報告の書き方: 提出先、期限、添付書類

報告先は所轄労働基準監督署長

報告先は、法人本社を管轄する監督署とは限りません。産業医を選任していた事業場を管轄する所轄労働基準監督署長です。多拠点企業では、どの事業場の産業医が辞任・解任・退任したのかを、事業場単位で切り分けます。

鳥取労働局によると、令和8年8月1日以降は、選任の場合に加え、辞任、解任又は退任の場合。(出典:鳥取労働局「労働者数50人以上の事業場の皆様へ 令和8年8月1日から、産業医の辞任等に関する報告が義務化されます」)”にも必要となるとしています。

同ページによると、報告方法は、電子申請が原則。(出典:鳥取労働局「労働者数50人以上の事業場の皆様へ 令和8年8月1日から、産業医の辞任等に関する報告が義務化されます」)”であるとしています。電子申請担当者、e-Govアカウント、添付資料、控えの保存先を事前に決めておきます。

当分の間は書面報告も可能

原則は電子申請ですが、すべての事業場で直ちに電子申請環境が整うとは限りません。そのため、当分の間は書面による報告も可能です。

厚生労働省の施行通達によると、改正後の規定による報告に代えて、書面により当該報告をすることができる。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”であるとしています。

同通達によると、書面報告を行う場合は、廃止前の安衛則様式第3号を用いることが可能。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”であるとしています。書面で出す場合でも、提出日、控え、郵送記録または受付記録、社内承認記録は残しておきます。

産業医が辞任したときの実務:空白期間を作らない手順

後任産業医は14日以内に選任する

辞任・解任・退任の報告をしただけでは、産業医体制の空白は解消しません。常時50人以上の事業場では、後任産業医を選任し、職場巡視、衛生委員会、健康診断事後措置、長時間労働面接、ストレスチェックなどの実務を継続できる体制に戻す必要があります。

労働安全衛生規則第13条によると、産業医の選任は、法第十三条第一項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。(略)産業医を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第13条)”に行わなければならないとしています。

厚生労働省のリーフレットによると、選任していた産業医の辞任等があったときは、当該日から14日以内に新たに産業医を選任する必要があります。(出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」)”であるとしています。後任探しを始める日ではなく、選任を完了させる期限として管理します。

電子申請でできる安全衛生関係の届出一覧

新しい産業医の選任報告と同時なら別報告は不要

産業医の交代では、前任者の辞任等と後任者の選任が近い日付で発生することがあります。この場合は、後任産業医の選任報告の中で前任者の辞任等を報告すれば、辞任等だけの別報告は不要です。

厚生労働省の施行通達によると、産業医の選任報告に際して辞任等の報告を行った場合は、上記の辞任等の報告は不要。(出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」)”であるとしています。

労働安全衛生規則第13条によると、産業医の選任報告事項には、前任者がいる場合、事業者は、産業医を選任したときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を、第十四条第二項各号に掲げる者であることにつき証明することができる電磁的記録等必要な電磁的記録を添えて、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。ただし、学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第二十三条(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号。以下この項及び第四十四条の二第一項において「認定こども園法」という。)第二十七条において準用する場合を含む。)の規定により任命し、又は委嘱された学校医で、当該学校(同条において準用する場合にあつては、認定こども園法第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園)において産業医の職務を行うこととされたものについては、この限りでない。(略)前任者がいる場合はその氏名及び辞任、解任等の年月日(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第13条)”が含まれます。交代日、前任者退任日、後任者選任日を同じ台帳で管理すると、二重報告や報告漏れを避けやすくなります。

衛生委員会とは:開催義務、構成員、議題、議事録を実務で整理

衛生委員会への報告義務は別に残る

今回の改正は、所轄労働基準監督署長への報告義務です。一方で、現在も、産業医が辞任したとき、または産業医を解任したときには、衛生委員会または安全衛生委員会への報告が必要です。監督署への報告だけで終わらせないでください。

労働安全衛生規則第13条によると、事業者は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したとき、事業者は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第13条)”であるとしています。

委員会での報告では、産業医本人の個人情報や契約上の詳細を不必要に開示しない配慮が必要です。報告すべき中心は、産業医が辞任・解任・退任した事実、産業医不在期間を作らないための後任選任状況、健康管理業務の引き継ぎ、緊急相談先です。

実務で作るべき台帳

報告義務に対応するには、産業医の契約管理だけでなく、法定選任の管理台帳を作ることが重要です。契約書の終了日と、法令上の辞任・解任・退任日、後任選任日、監督署報告日、委員会報告日がずれることがあるからです。

管理項目記録する内容注意点
事業場情報事業場名、所在地、所轄労働基準監督署、常時使用する労働者数法人本社単位ではなく事業場単位で管理する
前任産業医氏名、選任日、辞任・解任・退任日、理由の社内記録委員会報告用の表現は個人情報に配慮する
後任産業医氏名、生年月日、医籍登録番号、資格要件、専門科名、専属・嘱託の別14日以内に選任できるよう契約・資格確認を前倒しする
監督署報告電子申請日、到達番号、控え、添付資料、書面提出の場合の受付記録後任選任報告と同時か、辞任等単独報告かを明記する
委員会報告報告日、議事録、議事概要、後任選任状況、引き継ぎ事項辞任・解任の場合はその旨と理由を遅滞なく報告する
業務引き継ぎ健診判定、長時間労働面接、ストレスチェック、職場巡視、衛生委員会予定未完了案件をリスト化し、空白期間の対応者を決める

産業医不在期間を作らない段取り

実務では、辞任等が確定してから後任を探すのでは遅くなることがあります。嘱託産業医契約には、契約終了の予告期間、引き継ぎ、最終訪問日、未処理案件の扱いを入れておくと、14日以内選任への対応がしやすくなります。

  • 辞任・解任・退任の予定日が分かった時点で、後任候補の探索を始める
  • 前任産業医の最終訪問日、最終衛生委員会出席日、最終職場巡視日を確認する
  • 健診判定、長時間労働面接、ストレスチェック面接、復職判定など未完了案件を一覧化する
  • 後任産業医に提供する情報を、個人情報の範囲を確認しながら準備する
  • 辞任等の監督署報告と、後任選任報告を同時に行えるか判断する
  • 衛生委員会または安全衛生委員会への報告日を決める
  • 産業医不在期間中の緊急健康相談、長時間労働面接、職場巡視をどう扱うかを決める
さんぽ先生
さんぽ先生

今までは、産業医が非常に見つかりにくい状況であったため、労基署もあまりうるさくは言いませんでした。しかしながら、最近は産業医も増え、産業医業者も増えているため、産業医はかつてよりはるかに選任しやすくなっています。その背景から、労基署が産業医の選任状況を今後より厳しくチェックするようになる可能性は否めません。産業医の選任に困ったらぜひ当会にご相談ください。

よくある誤解

誤解1:後任が決まってから報告すればよい。
後任の選任報告と同時に前任の辞任等を報告する場合は別報告が不要になりますが、後任が決まらないまま放置してよいという意味ではありません。産業医選任義務がある事業場では、14日以内の後任選任が基本です。

誤解2:衛生委員会に報告すれば監督署報告は不要。
衛生委員会等への報告と、所轄労働基準監督署長への報告は別です。委員会報告は労働者側への説明と職場内の透明性、監督署報告は行政が産業医選任状況を把握するための手続として分けて考えます。

誤解3:産業医紹介会社を変えるだけなので会社は関係ない。
法定産業医の選任義務と報告義務は、基本的に事業者側の責任です。紹介会社や委託先が実務支援をする場合でも、報告先、期限、控えの保存、委員会報告を会社が確認する必要があります。

2026年8月1日からの産業医辞任等報告義務を実務で読む

2026年8月1日までに準備すること

  • 事業場ごとの産業医選任状況を一覧化する
  • 常時50人以上の事業場と、50人未満になった事業場を分ける
  • 産業医契約書、委嘱状、選任報告控え、資格資料を確認する
  • 産業医の任期、契約更新月、終了予告期間を台帳に入れる
  • 辞任・解任・退任時の社内ワークフローを作る
  • 所轄労働基準監督署、電子申請担当者、e-Gov控え保存先を決める
  • 後任選任を14日以内に進めるための候補リストを用意する
  • 衛生委員会への報告文案と議事録様式を整える
  • 健康診断、長時間労働面接、ストレスチェック、復職判定の未完了案件を引き継げる形にする
  • 2026年8月1日以降に辞任等が起きた場合、単独報告か後任選任報告との同時報告かを判断する

産業医側が確認しておきたいこと

産業医側も、辞任や契約終了時には、法定産業医としての最終日を明確にしておく必要があります。会社に伝えるべき情報は、退任日、未完了の産業保健案件、直近の衛生委員会・職場巡視・面談の状況です。個別労働者の健康情報を引き継ぐ場合は、目的と範囲を限定し、必要最小限にしてください。

また、解任の場合は、産業医の独立性や中立性に関わる問題が隠れていないかも注意点になります。会社と産業医の見解が異なる場合でも、労働者の健康確保に必要な意見、勧告、委員会報告、記録保存を軽視しないことが重要です。

まとめ

2026年8月1日から、産業医の辞任・解任・退任があった場合、所轄労働基準監督署長への報告義務が始まる予定です。対象は、産業医の選任義務がある常時50人以上の事業場が中心です。原則は電子申請ですが、当分の間は書面報告も可能です。

実務で大切なのは、報告書を出すことだけではありません。辞任等があった日から14日以内に後任産業医を選任し、衛生委員会等への報告を行い、健康診断・長時間労働面接・ストレスチェック・職場巡視の空白を作らないことです。2026年8月1日を待たずに、事業場ごとの産業医台帳と交代時フローを整えてください。

参考資料