当会では、過去記事においても、産業医の業務委託契約は偽装請負の疑いがあるという話をしました。また、X(旧twitter)では先行して、業務委託契約には偽装請負を含む4つの違法性がある、とのスライドを提示しております。今回、偽装請負を判定するうえで、重要な37号告示について解説します。
厚生労働省が示す「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(いわゆる「37号告示」)を中心に、偽装請負の判断に関わるポイントを整理します。特に産業医の「業務委託」と称される契約形態が、実際には偽装請負に該当する可能性が高いと考える根拠について解説します。
1.そもそも「偽装請負」とは
偽装請負とは、実際には労働者派遣に該当するのに、請負契約として取り交わされた契約のことを指します。具体的には、注文主(派遣先)から指揮命令を受けて働く労働者が、形式的には請負業者(派遣元)との契約になっているが、その実態が労働者派遣と同様である場合です。
労働者派遣事業は、労働者が派遣元と雇用関係にあり、派遣先と労働者の間に指揮命令関係があることが前提です。しかし、請負契約の場合、注文主と労働者との間に直接的な指揮命令関係がないのが基本です。
詳しくは以下の資料などご覧ください。
https://www.jassa.or.jp/admin/info/upload_image/071001leaflet_jigyounushi.pdf首都圏労働局リーフレット
厚労省
もし、請負契約の実態が、労働者が注文主から直接指揮命令を受けて働く形であれば、それは「偽装請負」とみなされ、労働者派遣法に違反することになります。このような場合、請負契約の形式が適用されているものの、実際は労働者派遣契約として取り扱うべきであり、労働者派遣法に基づく規制を受けることになります。
偽装請負の罰則
行政処分
偽装請負が認められた場合、請負事業者および発注者は以下のような行政処分を受ける可能性があります。
- 指導、勧告
- 立入検査
- 許可取り消し、事業停止命令
- 企業名公表
懲役・罰金
偽装請負が実質的な派遣労働と認められた場合、その内容の違法性により以下のような懲役・罰金を受ける可能性があります。
労働者派遣法違反
- 無許可派遣(労働者派遣法5条1項)
→ 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 - 派遣禁止業務への派遣
→ 同上(1年以下の懲役または100万円以下の罰金) - 公序良俗違反
- 直接選考の禁止
労働基準法違反
- 中間搾取の禁止(労働基準法第6条)
→ 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
偽装請負では、請負事業者(人材紹介派遣会社)だけでなく、依頼元(産業医を選任する企業)も罪に問われる可能性があります。
産業医が派遣禁止業務に該当するかどうかはグレーなところがありますが、当会の調査にて、明確に派遣禁止に該当するような産業医偽装派遣事例を確認しております。
直接雇用義務
2015年の改正派遣法および2021年の高裁判決により、偽装請負が認められた場合には依頼元からの直接雇用義務が認められるようになりました。
偽装請負の多い業界
元々は一人親方や運送業など、単身・屋外での請負契約で偽装請負が問題になりやすいものでした。しかし近年は、SES(単身で客先に駐在するシステム開発者)など、一人で客先を訪問するタイプの委任契約で偽装請負が問題とされることが多くなってきており、実際に当局からシステムインテグレーターへのヒヤリングも実施されています。また、後述しますが最近はやりのスキマバイトも偽装請負が問題となっています。嘱託産業医の業務委託契約も一人で客先を訪問する委任契約であり、SESやスキマバイトと類似した問題点を抱えているといえます。
ここで請負契約と委任契約の違いのおさらいをしましょう。
請負契約:成果物の完成が目的、完成しないと対価は発生しない(例:家の建築)
委任契約:事務を処理すること自体が目的、専門的技能、時間契約(例:弁護士への相談)
2.37号告示(労働省告示第37号)とは
37号告示とは1986年(昭和61年)の労働者派遣法施行に合わせて定められた基準で、正式名称は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」です。
この基準は、「業務委託」を標榜する事業が実際に労働者派遣に該当しないかどうかを判断するために設けられています。
つまり、偽装請負であるか否かは、この基準を元に判断されることになります。
例えば、裁判なら判例が重要視されたり、所轄が変われば尺度も変わる可能性がありますが、少なくとも厚労省領域においては37号告示が最も重要であると考えております。
37号告示の詳細は以下のページで紹介されています。(厚労省サイト)
37号告示の全文
37号告示の全文を記載します。
https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
37号告示の主な趣旨
- 発注者(注文主)が、受注者(請負業者等)の労働者に直接の指揮・命令をしていないか
- 受注者が、自己の業務として労働者を管理しているか
- 発注者が特定の人を指名・拒否し、事実上、労働者の配置に口出ししていないか
- 資機材の準備、作業方法の決定、進め方などを、受注者が主体的に行っているか
- 労働者に“完成責任”の対価として報酬が支払われる形になっているか
これらを全てきちんと満たしていなければ、形式上「請負契約」や「業務委託契約」と書かれていても、実質は労働者派遣とみなされ、行政処分等を受けたりします。
3.ほかの偽装請負を判断するポイント
偽装請負において参考になるポイントは、特に「受注者が自ら労働者を指揮管理し、かつ自己の業務として完結させること」について、労働者の「労働者性」が高いか否か、と総合的に検討されることがあります。この労働者性とは、昭和60年の「労働基準法の「労働者」の判断基準について」という厚労省の資料をベースにしており以下のようなチェックリストで目安として検討できます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001322145.pdf
労働者性の有無は案件によりまちまちと思われますが、その点、当会の過去記事において労働者性の高そうな案件を紹介させていただきました。一方、このチェックリストは一人親方などの請負契約を念頭に置いて作成されたものです。SESや嘱託産業医のような委任契約は少し勝手が異なり、請負契約よりも偽装請負が認められやすくなっています。また、37号告示は「労働基準法の「労働者」の判断基準について」をベースにして作られたものであり、かつ37号告示の方が新しいので、これがすべてではなく、次項で議論する「労働者の配置等」も当然に検討されると考えております。
訂正(2025/5/18):「37号告示」が発注者、元請、下請けの3者の関係性が偽装請負であるかそうでないかを判定するものである一方で、「労働者性チェックリスト」は発注者と受注者の2者の関係性が請負であるか雇用であるかを判定するものであり、性質が異なります。混同させる書き方をしていましたが訂正いたします。ただし、偽装請負の判定においても労働者性は重要なファクターとなります。
4.特定の産業医を指名したり解任したりするのも偽装請負である
先ほどのチェックリストは偽装請負の判断によく使われるものですが、これはあくまで業務内容にかかるものです。一方、37号告示は「発注者が特定の人を指名・拒否し、事実上、労働者の配置に口出ししていないか」についても規制をしています。
4-1.疑義応答集(Q&A)からの解説
厚生労働省の「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」では、特に「特定の者を指名もしくは拒否」する行為について、下記のように明確に言及しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000834503.pdf
「アジャイル型開発」とは聞きなれない言葉ですが、委任契約のことを指しています。
この質疑応答を解釈すると、
- 発注者が、労働者個人を特定できるスキルシートを求めたり選考等に利用する行為
- 発注者が、労働者個人を特定して「この人に来てもらいたい」と指名する行為
- 発注者が、労働者個人を特定して「この人は合わないから外してほしい」と拒否する行為
があれば、形式上は「業務委託」としていても、実質的に発注者が労働者を支配・管理しているとみなされ、偽装請負となる、ということが明言されています。
4-2.産業医の「業務委託」で起こりがちな問題
最近広がっている「産業医の業務委託」でも、下記のような実態が見られるケースがあります。
- 「顔合わせ」と称して実際には企業側(発注者)が産業医を特定した状態で面接・選考している
- 来た産業医のことを気に入らず、企業の意向により産業医を解任し、別の産業医に差し替え
このような仕組みは、37号告示の要件から見れば「受注者の労働者の配置に、発注者が口出ししている」状態ともとらえられかねません。この点につきまして、当会はそのような行為が実際に行われていることを確認しており、今後の対応を進めているところでございます。
5.産業医紹介会社の「面接・選考」「解任・再選任」の問題
実際に大手とされる産業医の紹介・派遣会社の多くが、
- 「たくさんの産業医から選べます」
- 「もし相性が悪ければ解任・再選任もできます」
などを“売り”にしている状況が見られます。これらは、発注者が特定の産業医を指名・拒否することにほかならず、37号告示が禁じる「発注者による配置決定の関与」に該当するおそれが高い行為です。
また、「気に入らない産業医は排除できる」ことを営業上のメリットとして謳うこと自体が、「実質的に産業医を企業側がコントロールできる」仕組みを示唆していると言えます。
6.まとめ:偽装請負のリスクと今後の動向
- 産業医の「業務委託」契約だからといって、必ずしも適法とは限らない
- 労働者性が認められるほど直接指揮命令がある場合は、偽装請負に該当
- 実際には企業(発注者)が産業医を選考・排除できる仕組みである場合も、偽装請負に該当
- 無許可派遣や派遣禁止業務(産業医は医師法上の要件もあるためさらに複雑)に該当する恐れがあり、労働基準法上の「中間搾取の禁止」など、様々な法令違反に問われる危険性がある
産業医の業務委託形態は比較的新しく、法的リスクの検討がなされないまま業界全体に広がってしまいました。しかし、厚生労働省や労働局が実態調査を強化すれば、偽装請負認定が相次ぐ可能性も否めません。当会としても、このような不正な契約の慣行を是正するため、調査および各方面との協議を含め、最善を尽くしているところです。
おまけ:スキマバイトの偽装請負
人材不足が深刻化する昨今、「スキマバイト」と呼ばれる時間単位のアルバイトがブームとなっていますが、そこでも偽装請負が横行しているという報道もあります。発注元を労働者が単身で訪問する形態は、偽装請負の温床となりやすいものです。当会も、嘱託産業医業界より不正な契約形式を排除できるよう努めてまいります。
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